ニコンが新フォーマットのNikon 1シリーズを発表した。どんな顔をしたカメラか? デザインが一番気になる! Web上で製品写真を見て思わず笑ってしまった。「せっかく新フォーマットを出したのにこの顔でいいの?」と思わず叫びたくなった。
我々はニコンの長い長い歴史を知っている。当然「ニコンブランド」のイメージを持っている。それは一言でいうなら、「精緻で頑丈」なイメージだ。「丈夫で長持ち」がニコンイメージ。だが、今回のニューモデルは予想外だった。
むろん、今の世の中、「女子カメラ」と称して、従来からの男性層だけでなく、広く女性にもウケるカメラが求められている。カメラといえども「ファッショナブル」でなければならない、と言われる時代。いつまでも過去の男性中心の評価だけを頼りにしてはいられない。昔は、カメラのボディカラーはシルバーかブラックのみだった。今は、カラフル。カラーバリエーションの時代だ。
時代が変わった。世の中が変わった。カメラも「カラバリ」の時代になった。女子のユーザー層も増えた。デジタルになり、何よりこれまでの写真を撮る上での「流儀」「作法」など、小難しい手続きがいらなくなった。今は操作の上では「オート」どころではなく「超オート」といってもよい。それが、現在の「デジカメ」である。
そうしたなかで、天下のニコンも、これまでの硬派なイメージを何とか時代にマッチした「柔らかな」イメージにこれまで以上に変えようとしていることも、容易に想像できる。プロ用カメラの代名詞がニコンであった時代から、「女子カメラ」もニコンです、という時代を期待しているのかもしれない。
しかしながら、一見「女子カメラ」を視野に入れた新製品であっても、メーカーごとにデザインは異なる。そこには、メーカーのこれまでの蓄積ともいえるアイデンティティ」が備わっている。その代表格は、オリンパスPEN。E-P3にはオリンパスPEN Fシリーズの遺伝子が組み込まれている。ソニーは? NEX−7をみると、誰もが「ソニーらしい!」という。かつてのソニー製品、10年、20年、30年のロングスパンでソニー製品を振り返ったときに、ある種の「共通のイメージ」が現れる。その独自のイメージをNEX-7は間違いなく持ち合わせている。NEX-7は、ソニーイメージの表層化であり、企業イメージの具現化であるともいえる。PENTAX Qにもそれが感じられる。PENTAX Qの場合は、Auto110のデジタルバージョンとでもいえる、過去の遺産の継承が明確に現れている。
このような観点から見たとき、今度のNikon 1 から、果たして何が読み取れるだろうか。Nikon 1がニコンらしくないからダメだと言っているわけではない。そうではなくて、天下のニコンが、全く新しい独自のフォーマットを打ち出す以上、単に「女性層」を狙ったというだけでは、説明不足であるし、そうした表面的な「ファッション性」以上に、そのメーカーの「アイデンティティ」、つまり思想性がデザインに結集されなければならないと言いたいのである。
Nikon 1のサイトを見れば、J1には、「ミニマルデザインのボディ」と表現されている。ミニマルは「最小限の」という意味。しかし、「ミニマル」という言葉は、今日のプロダクトデザインに適用するときには、単に「小さい」というだけでは不十分で、虚飾を廃して、形状・マテリアル・テクスチュア・機能・ユーザーインターフェースなどが十分に吟味され、そのモノの本質を浮かび上がらせるある種のデザイン哲学を持ったものに、初めて用いられる形容である。アップルのMac Book Air、iPhoneなどがまさに「ミニマルデザイン」であるといえる。
J1は、最近のコンパクトデジカメに共通するデザインイメージであり、「今はこのぐらいが流行ってます」説得されて、納得出来ないこともないが、問題は、上位機のV1だ。「ファインダー搭載のプレミアムモデル」と形容されている。問題は、このボディの上位部(軍艦部)に無造作にくっつけたようなファインダーの形状。ボディに、ファインダーを搭載するからと言って、この程度の収まりでは、「チョンマゲ」がついていると、からかわれても仕方がない。このファインダーの収まりのため、果たしてデザインチームは本当に悪戦苦闘したのだろうか。あまりにも安易ではないか。この程度のデザイン力なの? と、そのチームの力量を疑ってしまうほど、未完成なデザインだと思う。
「収まり」がプロダクトデザインにおいてとても大切なことは、プロのデザイナーであれば百も承知なはず。上から見ても、横から見ても、360°あらゆる方向から形状を吟味し、「かたち」を追い込んでいくわけだが、どうみてもV1から、そのプロセスと苦労が感じられない。その結果、「間抜け」な顔になってしまった。一方のNEX-7は、EVFファインダーの収まりを本当によく考えたと思う。本体にその存在がまったくわからないほどきっちり格納されている。そこにたどり着くまでには、各パーツの陣取り合戦で相当なせめぎ合いと苦悩があったであろう。NEX-7は「デザイナーの意気込み」が感じられる精悍なデザインだ。
マーケティングを重視し、その結果、今後コンデジユーザーや女性層が、もっと上位機のレンズ交換式カメラを使うようになるだろうとの見方は、決して間違っているわけではない。潜在的予備軍の掘り起こしである。しかし、最近の女子学生を見ても、かつてのフィルム時代の中古一眼レフを好んで携える人も少なからずいる。また、フィルム時代ならではの形状を持つ、LomoやDianaなどの「レトロ感あふれるカメラライクな風貌を持った」トイカメラを好む人も多い。それらのデザインは、決して「プレーン」なデザインではない。デジタルカメラのなかで、本当の「ミニマルデザイン」的存在であるGRデジタルにあこがれる層もいる。あるいは、ペンタプリズムのついた一眼レフを求めるユーザーもいる。最近の若い女性層は、かつての「男の持ち物」「男のスタイル」を好む人も増えてきている。「ミリタリーテイスト」もそう。少なくともレンズ交換式カメラの購買層は、男女を問わず、それなりの「見る目(選択眼)」をもっているはずである。
色に選べば、男子は「ブラック」、女子は「レッド」という単純分類の時代は終わった。男女の嗜好の境界もそれほど明快ではない。そういう時代であるからこそ、独自のデザインコンセプトが今まで以上に求められる。単なるマーケティングの結果からだけでデザインの方向性を決めるのではなく、その企業独自のイメージを追求したデザインをもっと積極的に発信していかなければならないだろう。
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