Murphy:「Djangoくん、前回の曲、「バードランドの子守唄(Lullaby Of Birdland)」をさっそく聴いてみたんだけど、曲が始まった途端、ああ、この曲か、とすぐにわかった。これがクリス・コナーだったのか。改めて聴くと、実にいい曲だね。」
Django:「そうなんだ。それに録音もいいだろう。50年代の録音って、今の時代のようなステレオじゃなくてモノラルだけど、サウンドに奥行き感があり、味があるんだ。」
M:「そうだね。想像以上だった。Django君、この時代の録音で、他にいいアルバムない?」
D:「いっぱいあるよ。50年代といえば、ジャズの黄金時代だから、選ぶのに困るぐらいたくさんあるよ。もうすこし、具体的に言ってくれないかな。」
M:「うん。そうだなあ、ジャズ・ボーカルでレトロな味わいというか、ノスタルジックで、くつろいで聴ける曲だね。ゆったりとした気分になれるもの。」
D:「わかった。およそのイメージがついてきた。それなら、あまり知られていない歌手だけど、実にしっとりとした、暖かみのあるボーカルを選んでみよう。バーバラ・リー(Barbara Lea)という白人女性ボーカリストのアルバムで、この歌手の名前がそのままタイトルになった「バーバラ・リー」というアルバムをすすめよう。録音は、50年代半ばで、たしか1956年だったと思う。アルバムの一曲目は、ジェローム・カーン&ハマーシュタインの名コンビによる「ノーバディ・エルス・バット・ミー(Nobody Else But Me)」というミュージカルナンバーで始まるんだ。」
M:「ジェローム・カーンの曲ってよく出てくるね。原曲は、なんていうミュージカルなの?」
D:「ブロードウエイのヒット作、ショウ・ボートだよ。このアルバムは、ずいぶん以前にLP時代に見つけたんだ。たまたま店頭で。バーバラ・リーのことは何も知らなかったんだけど、偶然このLPを発見し、アルバムに収録されている曲をみていたら、「ノーバディ・エルス・バット・ミー」が入っていたので思わず買ってしまったんだ。家に帰って聴いてみたら、想像以上に素晴らしかったね。原曲の持ち味を生かし、実に端正に歌っているんだ。しかも、よくスイングしている。バラードもうまいしね。その後、バーバラ・リーの他のアルバムも集めたんだけど、彼女のアルバムは少なく、50年代のものは確か3枚ほどしか出ていなかったと思う。」
M:「へえ、店頭でそんないいものが、偶然に見つかることってあるんだね。ボクなんか、ABC順に順番に見ていくと、途中で疲れてさっぱりわからなくなるんだけど。何かコツがあるの?」
D:「コツというほどのものではないけど。そうだね。以前のLP時代は、探しやすかったんだ。今みたいにABC順に並べてあっても、アルバムサイズが大きいから、手にとって一枚一枚見ていけたんだね。それと、レーベルごとにまとめてあったお店も多かったよ。例えば、ブルーノートとか、ヴァーヴとか、OJCなど(OJCはプレスティッジ、リバーサイド、コンテンポラリーなどの再発もの)レーベルごとに分かれていたので、レーベルで選ぶ方が多かったね。レーベルである程度の内容がわかるからね。たとえば、軽い感じのジャズがほしかったら、ウエストコーストのパシフィックから選ぶという感じ。」
M:「そうか、レーベルの特徴がわかれば、さらに奥深く入っていけるんだね。」
D:「そのとおり。それと、やはり曲だね。好きな曲を選んでいけばいいんだ。」
◇◇◇
バーバラ・リーは、決して華やかな歌手ではないが、都会的で洗練された雰囲気と暖かみのある歌声は、今聴いてもノスタルジックで味わい深く、大人のジャズとして隠れた人気を持っている。伴奏役の、ジョニー・ウインドハーストが奏でるトランペットも、中間派ならではのリラックスした雰囲気で、このアルバムの魅力をさらに高めている。本当に心が安らぐアルバムだ。
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