Django:「40回目ということで、今回はとっておきのジャズ・ヴォーカル・アルバムを紹介しよう。このアルバムは、意外に知られていないんだ。」
Murphy:「白人女性歌手で、さりげなく自然に歌っていながら、それでいてジャズ・フィーリングが豊かな人の方が、ボクはいいんだけど。」
D:「Murphyくんの好みはわかっているよ。ジューン・クリスティ(June Christy)がまさにそのとおりだ。もともと、スタン・ケントン楽団で歌っていただけあって、歌の実力は相当なもの。歌い方に変なクセがなく、聴きやすい。そうかといって、一般のポピュラー歌手とは違って、自然なジャズ・フィーリングが備わっている。」
M:「スタン・ケントン楽団っていえば、クリス・コナーもそうじゃなかった?」
D:「そのとおり。クリス・コナーの先輩格に当たる人。この二人はともに白人知性派ジャズ・シンガーともいわれていた。以前にクリス・コナーを採り上げたときに、いずれ、ジューン・クリスティも紹介しようと思っていた。今回は、ジャズの名曲中の名曲といわれる、エロール・ガーナー(1921〜77)が1954年に作曲した、ミスティが収録されているアルバムをおすすめしたいね。しかも、クリスティは、この曲を、アル・ヴィオラ(Al Viola)のクラシックギターの伴奏だけで歌っている。」
M:「それはよさそうだ。しかも曲がミスティだからね。」
D:「この曲、飛行機の機内で聴けばいっそう雰囲気が出るよ。」
M:「機内?」
D:「この曲は、有名な話なんだけど、エロール・ガーナーが、ニューヨークからシカゴに行く飛行機の中で、窓から霧深い情景を眺めていて浮かんだメロディーをもとに作曲したらしい。」
M:「ところで、アル・ヴィオラってどういう人?」
D:「アル・ヴィオラは、1919年NYブルックリン生まれのジャズ・ギタリストで、幼少の頃からギターを始め、チャーリー・クリスチャンに傾倒してプロになった。クラシックギターでも演奏し、特に歌伴では定評のある人。歌伴のうまい人は、ピアノでもギターでもそうなんだけど、本当に実力のある人。名脇役っていうのは、相手の気持ちを汲み取りながら、そのシンガーの実力を引き出し、いかに歌いやすくサポートしていくかという点で抜きん出ている人だから。」
M:「録音は相当古いの?」
D:「いや、1962年だからまだ比較的新しいよ。」
M:「62年で新しいって! 録音悪そうだな。」
D:「ジャズを聴いているものにとって、1962年っていうのは、そんなに古くない。ここでちょっとオーディオの話をしておくと、50年代末から、ステレオ録音になり、録音技術は完成域に入っている。ある意味では、今の時代を基準に考えても、この時代は、相当音質の優れた時代であったと言える。こと、録音技術に関しては、50年代後半から60年代中頃までが、ある意味で黄金時代。真空管マイクロフォン、真空管アンプを使用し、テープレコーダー技術も相当なレベルに達していた。オーディオに全精力が傾けられていた時代だね。」
M:「そうか。そういえばブルーノートの名録音もその時代だ。」
D:「ところで、話を戻すと、ジューン・クリスティのアルバムのタイトルは、ジ・インティメイト・ミス・クリスティ(The Intimate Miss Christy)。聴きやすくて、センスがよく、しかも本格的なジャズ・フィーリングに溢れたこのアルバムは、広くジャズ・ヴォーカル入門の方にもお薦めします。ギター1本、あるいはフルートとギターの伴奏だけで、ジャズを歌える人は、そう多くはない。相当な実力シンガーでないとむずかしい。そんななかで、肩の力を抜いてさりげなく歌う、リラックスしたなかで、余裕を持って大人の歌を聴かせる、クリスティはそんなシンガーです。このアルバム、2006年9月Blue Note Records(U.S.)より再発売され、今なら購入可能です。」
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The Intimate Miss Christy/June Christy 1962
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