パーカーの名曲スティープルチェイス(The Steeplechase)。この曲を最初に聴いたのは、パーカーのサヴォイ(SAVOY)盤だった。メンバーは、Charlie Parker (as)、Miles Davis (tp)、John Lewis (p)、Curly Russell (b)、Max Roach (ds)。ダイアルのパーカーよりもサヴォイの方が気に入って、ほぼ日常的に聴いていた。サヴォイ盤は、何回聴いても聴き飽きなかった。はじめはマスターテイクで満足していたが、その後、全テイクの入ったアルバムを入手して、それぞれのテイクごとの違いを楽しむようになった。でも、普段聴くときは、マスターテイクの方がよい。同じ曲を何度も聴かずに済むからだ。
学生時代に同級生が、パーカーのNow's The Timeを口笛で吹いていた。もちろんテーマだけだった。さすがにDonna Leeあたりは、口笛ではなかなか難しいと思うが、これなら可能かも知れないと思い、自分でも練習した。でも、もともと口笛がそれほど得意でないので、あまりうまく吹けなかった。自分で一番吹きたかったのは、スティープルチェイス(The Steeplechase)だった。この曲は、パーカーの数ある曲のなかでも特に気に入り、他のサックス奏者のアルバムでも、この曲が入っているとつい買ってしまうようになった。
あるとき、ワーデルグレイ(Wardell Gray)のアルバムのなかで、スティープルチェイスが入っているのを発見し、すぐにその場で買って帰った。アルバムタイトルは、邦題がザ・チェイス、オリジナルは、The Chase and The Steeplechaseというまさに、曲そのものがアルバムタイトルになっていた。このアルバムは、ワーデルグレイ(ts)、デクスター・ゴードン(ts)、ボビー・タッカー(p)、ドン・バグレー(b)、それにドラムスがチコ・ハミルトン。2曲目に入っているスティープルチェイスは、収録時間が14分近くにも及ぶ長時間セッションで、ライブの雰囲気を存分に楽しむことができる。
ワーデル・グレイは、歌うようなフレージングが次から次へと沸き上がり、聴いている方も思わず惹き込まれる。代表作は、プレスティッジから出ている、ワーデル・グレイ・メモリアル、Vol.1と2の2枚のアルバム。1950年から52年の録音。残念ながら、彼は1955年に亡くなり短命に終わっている。だから、作品の数は少なく、それほど知名度も高くなかった。しかしそのアドリブは一度聴くと忘れられないほどの魅力を持ち、聴き手を引きつける。フレーズが自然でなめらかだ。しかも、フレーズの間(ま)が絶妙で、全く抵抗なく聴き続けられる。こちらの耳が、積極的にアドリブ展開を聴き逃さないように追いかけるようになる。ソニー・ロリンズ出現以前では、最もよく歌うモダンテナーだとも言われている。チェースのアルバムでは大和明さんがライナーノートを担当。岡崎正通さんとの共著モダン・ジャズ決定版で、氏は以下のようにワーデル・グレイを絶賛している。(Djangoより)
「レスター・ヤングとチャーリー・パーカーを統合化しモダン化したテナーマンで、歌心とスイング感に溢れたくつろいだプレイは他のテナーマンの追従を許さぬものがある。」(大和明、岡崎正通:モダンジャズ決定版、音楽の友社、1977年)
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ワーデル・グレイ=デクスター・ゴードン/ザ・チェイス (紙ジャケット) DECCA
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