このシリーズも60回を終え、いよいよ第61回を迎えることになりました。「ジャズに名曲なし、アドリブあるのみ」とよくいわれたものですが、昔から「ジャズに名曲あり」といつも思い続けています。ジャズ・スタンダード曲は、もともと映画主題歌やミュージカルなどの挿入歌であったものが多く、いわゆる「歌もの」と呼ばれているものは、メロディが美しく、印象的で、しかもコード進行が魅力的なものが実にたくさん存在しています。
今回は、そういったジャズスタンダード曲のなかでも、とびきりメロディが美しく、一度聴いたら忘れられない名曲を選んでみました。1944年のパラマウント映画、ミュージカル・コメディ And the Angels Sing(邦題:そして天使は歌う)の主題歌で、It Could Happen to You(あなたに降る夢)という明るく軽快な曲です。(作曲Jimmy Van Heusen、作詞Johnny Burke)。
ジョー・スタッフォードのヒット曲でも知られるこの曲は、ジューン・クリスティやダイナ・ワシントンなど、多くのボーカリストに愛されてきました。また、マイルス・デイビスも 1956年にRelaxin’ with the Miles Davis Quintetに吹き込み、ソニー・ロリンズも The Sound of Sonny(1957年)に名演を残し、他に、バド・パウエル、チェット・ベイカーなど、実に多くのジャズプレーヤーに演奏されてきました。
さて、今回、この屈指の名曲を採り上げましたが、あまりにも名演が多くて、誰のアルバムを選ぼうかと考えたのですが、なかなか絞りきれません。そこで、比較的新しい録音(1995年)で、ライブレコーディング、しかもアーティスト秘蔵のテープであったものが、ついに2006年にリリースされたというアルバムを紹介します。演奏は、これまで採り上げた人で、一人は、前回紹介したピアニストのホッド・オブライエン(Hod O'Brien)、もう一人もピアニストで、54、55、56回に連続して掲載したバリー・ハリス(Barry Harris)で、なんと、この二人の共演アルバムです。
アルバム名は、Hod Meets Barry :Hod O'Brien Trio with Barry Harris "Live"で、ヴァージニア大学で95年11月5日に行なわれたコンサートを収録したもので、2006年に初めてリリースされました。ホッド・オブライエンと先輩格のバリー・ハリスという、二人のバップ・ピアニストの共演は、貴重なレコーディングで、想像どおり、素晴らしい演奏を展開しています。このアルバムは曲目も魅力的で、パーカーの名曲、Moose the Mouche、Ornithologyなど、他に Round Midnightも収録され、アルバムのラストは、パーカーのYardbird Suiteをホッド・オブライエンの奥さんが歌っています。(Django)
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ホッド・ミーツ・バリー“ライブ”(Hod O'Brien Trio with Barry Harris "Live")
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