Murphy:「今回もピアノソロアルバムについて教えてほしいんだけど。」
Django:「ハンク・ジョーンズ、バリー・ハリスなどを以前紹介したけど、もうひとり是非ピアノソロで採り上げたい人がいる。Murphyくん、MJQのピアノ奏者は誰だったか知っているよね?」
M:「もちろん、ジョンルイス(John Lewis)だろう。」
D:「MJQは、1952年から1974年まで、実に22年という長期にわたり演奏活動を行ってきた。1961年に初来日し、その後66年、74年にも来日している。解散後、76年に、ジョン・ルイスは、ハンク・ジョーンズ、マリアン・マクパートランドとともに日本コンサートツアーを行った。そのときの、東京郵便貯金ホールでのライブレコーディング・アルバムが確か1980年ごろにLPで発売されたが、1994年にCDで再発されている(その後2002年にも再発)。
このアルバムは、全9曲のうち6曲が、ジョン・ルイスのピアノソロで、残りの3曲が、ハンク・ジョーンズとのデュオというとても興味深い作品。ジョン・ルイスとハンク・ジョーンズのデュオアルバムというのは、おそらくこれが初めてだと思う。二人は個人的にも親しい間柄であったそうで、お互い演奏スタイルが全く異なるだけに、そのコントラストがすばらしく、ボクの座右の愛聴盤になっている。」
M:「ジョン・ルイスのピアノはMJQを聴いて知っているつもりだけど、ピアノソロになるとかなり演奏スタイルは変わるの?」
D:「基本的には同じ。スインギーで雄弁に語りかけてくるオスカー・ピーターソンのような華麗なピアニストとは対極をなす演奏スタイルで、一言でいえば簡素で地味な演奏だ。音数は少なくムダな音を奏でない。音と音の間が実に見事に生かされており、一音一音を大切にし心をこめて歌っている。初めて聴いてもそれなりに良さがわかると思うが、2度、3度と聴けばジョン・ルイスの音楽のすばらしさがもっとわかってくる。聴くたびにその音楽から新しいことを発見でき、実に味わい深さを持った演奏だ。彼のピアノからは一種の気品とでもいえるものがあり、作曲家としても優れた多くの作品を残し、アレンジャー、プロデューサーとしても人望の厚い、彼の人柄がそのまま表れた音楽だ。
このアルバムで、ジョン・ルイス自らが作曲したジャンゴ(Django)をソロで弾いているが、これは、ボクがこれまで聴いたジャンゴの演奏のなかでも最も好きな演奏だ。淡々と語りかけるなかで、何度聴いても聴き飽きない一種のクラシックとでもいえる気品の高さが一貫して表出されている。作曲者自らがソロで演奏したこの曲を聴くと、クラシック、ジャズなどのジャンルの垣根を超えて、ジョン・ルイスならではの個性が、本当に人の心を打つ人間性豊かな音楽として、ひしひしと自分に伝わってくる。
ハンクジョーンズとのデュオのなかで演奏されるセントルイス・ブルース(St. Louis Blues)もすばらしい。向かって左がジョン・ルイス、右がハンク・ジョーンズ。演奏スタイルが全く異なるだけに、デュオで演奏しても重ならず、それぞれの個性がいっそう引き立っている。
二人のデュオで、ジャズスタンダード曲、身も心も(Body And Soul)も演奏している。この曲は、1930年にソング・ライター、ジョニー・グリーン(Johnny Green)が作曲したブロードウエイ・レビュー、Three's A Cloudのなかの曲。ビリー・ホリデイが歌いコールマン・ホーキンスが演奏し、その後今でも多くのジャズ・ミュージシャンに演奏される名曲。他に、四月の想いで(I'll Remember April)もラストに収録されている。
なお、このアルバムのカバー・ジャケットを飾る、ジョンルイスの肖像画は、映画、ジャズ、ミュージカル評論の第一人者であった、野口久光氏が描かれたスケッチ。
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ジョン・ルイス・ソロ/デュオ・ウィズ・ハンク・ジョーンズ Live in Tokyo
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