Murphy:「デューク・エリントン(Duke Ellington)はアルバムが多くて何から聴いてよいかわからない。Djangoくんは、以前からエリントンが特に好きだといっていたので、ボクも少し興味を持ったんだけど、何から聴けばいい?」
Django:「確かに、エリントンのアルバムの数は多いね。その中でも、いわゆるベストアルバムというコンピレーションものが特に多いから、なおさらどれを選んでいいかわからなくなっている。それと、CDショップの店頭では、案外数が少ないのが現状だと思う。だいたいビッグバンドは、売れないという先入観があるからね。」
M:「デューク・エリントンのアルバムはLP時代でもあまり売れなかったの?」
D:「日本ではそうだったみたい。だから今でも、ベスト盤ばかりが店頭に並んでいるんだ。Murphyくんがもしこの機会にエリントンを聴いてみたいと思うなら、せっかくだからベスト盤を買わずにオリジナル盤の方を薦めるよ。」
M:「どうして?」
D:「ぼくも最初はベスト盤を買った。最近でも買うことがあるけど、やはりエリントンの場合は、特にLP時代のものは、一つのアルバムごとにコンセプトが異なり、そのまとまりがはっきりしているから、是非各時代ごとの名アルバムを購入してほしいね。エリントンの音楽は、一枚のLPのなかでの曲の配列も十分に意識した構成になっているものが多く、一言でいえば一枚のLPが組曲というふうに見立てることができる。だから、当時のLPをCD化したものを聴けば、その時代ごとの音楽の特徴がよくわかるし、それが大変おもしろい。」
M:「エリントンは、同じ曲を何回も吹き込んだと聞いているけど、実際にはどの程度なの?」
D:「ほとんどの曲は、再録音しているし、その度にガラッと変わるから興味深いね。例えば、ビリー・ストレイホーン作曲のA列車で行こうは、1941年が初吹き込みで、その後何度か録音し、1966年には、ビリーの追悼盤として録音したこの曲を、後でRCAが、ポピュラー・デューク・エリントンというアルバムに収録している。1941年盤はレイ・ナンス(tp)のソロをフィーチャーしたまさに古典的名演だし、1966年盤は、クーティ・ウィリアムス(tp)が豪快なプレイを見せ、どちらも意味があるんだ。
今回Murphyくんに是非聴いてほしいアルバムがあるんだけど、それは、エリントンのCBS時代に、従来の3分程度しか収録できなかったSPレコードから、一挙に十数分もの長時間収録が可能なLPレコードが出現したころにリリースされたもので、Masterpieces by Ellington(1951,52年)という記念すべきアルバム。もちろん、今はCD化されているんだけど、2004年にColumbia Legacyシリーズとして発売されたもの(輸入版)は、音質が飛躍的に改善され本当に素晴らしい。RCA盤は、CD化されてもどうも音質が今ひとつなんだけど、このColumbia Legacyシリーズは、どのアルバムも大変バランスのいい音がする。
なぜ、音質にこだわるかと言えば、エリントンの音楽は色彩の魔術師といわれるほど、そのサウンドが素晴らしく、アルバムの音質が非常に大切だから。このアルバムは、オリジナルは4曲で、3曲はボーナストラック。オリジナルの4曲は、いずれも長時間演奏で、1曲目のムード・インディゴ(Mood Indigo)は、15分余の長時間演奏。他に、ソフィスティケイテッド・レディ(Sophisticated Lady)、前回採り上げたソリチュード(Solitude)も含まれ、いずれもボクは傑作だと思っている。
ムード・インディゴは、インディゴ・ブルーという色彩をテーマとしたトーン・ポエムといえるもので、クラシックのドビュッシーやラヴェルに匹敵する名曲だ。1945年のRCA盤もいいけど、このCBS盤は録音の優れている点が、よりこの演奏を魅力的なものにしている。ジャズファンはもとよりクラシックファンにもぜひ聴いてほしい演奏だね。色彩豊かなサウンドが刻一刻とキャンバスのトーンを微妙に変化させ、その色は深みを持ち、見事な造形作品に仕立て上げられている。あの武満徹氏が、エリントンに憧れたことも、なるほどと思わせる曲であり、ジャズそのものでありながら、ジャズを超えて、音楽として今も生き続けているといつも思っている。ムード・インディゴを含む先程あげた3曲は、ジャンルを通り越して、ボクの最も好きな曲です。話が長くなったのでこのへんで中断します。」
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