パーカーはSPレコードの時代に数多くの名演奏を吹き込んだ。それらは、ビバップといわれるスタイルのジャズだった。その後、初期LP時代にもいくつか録音したが、若くして世を去った。
もし、パーカーがもう少し長生きしていたら、ステレオ録音を残したかもしれない。せめて1960年頃まで生きていたらと思う。もちろんパーカーの演奏は、たとえ録音が古くても、今でもいっこうに色あせないどころか、時代とともに一層の輝きを増している。その上で、もしステレオ録音のパーカーがあったら...。
夢の共演。今回はステレオ録音でビバップを聴いてみたいというリクエスト。サックスはもちろんアルトでなければおもしろくない。ステレオ録音だから時代設定は、50年代の終わりから60年代の前半。もちろんパーカーはこの世にいない。では、誰を起用するか?バリバリのビバップが吹ける人、しかもアルトで。んー、この人しかいない。
そう、ご想像のとおり、ソニー・スティットだ。彼は、アルトもテナーもバリトンもこなす万能選手だが、ここはアルト一本で通してほしい。
さて、ソニー・スティットとチームを組む上での要としてピアノは、根っからのビバップ体験を持った人がいい。その上で、出しゃばらず、シンプルにして的確で、絶妙な間合いを持った人。そうです。ご想像のとおり、その人は、あのMJQのリーダー、ジョン・ルイス。40年代にパーカーと演奏を共にした人だから、願ってもない人選だ。
ジョン・ルイスがピアノを担当するなら、ドラムは同じMJQのメンバーである、コニー・ケイにまかせよう。あれっ!これは前回に引き続きまたまたMJQのリズム陣か。
いや、これではおもしろくない。ここはあっという驚きがほしい。では、誰がいいか? まず、楽器の編成からいえば、この際、一般的な編成とは違った新鮮な組み合わせがほしい。ユニークさからすると、ギターだ。
時代は、60年台前半。さて、誰を選ぶか? ソニー・スティットがリーダーだから、その主役を盛り立てる名サポート役のギタリストがほしい。と、なると、あのソニー・ロリンズの名脇役。ジム・ホールだ。これで、俄然このバンドがおもしろくなってきた。
ベースは? ここまでくれば、MJQのパーシー・ヒースで決まり!といいたいところだけど、運悪くパーシー・ヒースは都合が付かない。ここは、急遽代打で、リチャード・デイビスにお願いしよう。彼なら、クラシックにも精通し、その上超絶技巧を持ったベース奏者だから文句はない。
メンバー構成が決まったところで、選曲をどうするか? ビバップの名曲をそろえるか? いやいやそれだけでは物足りない。ここは、思い切って全曲パーカーに統一しよう。これはすごいぞ。ジムホールもパーカーの曲をやるんだから実に新鮮だ。パーカーに似ていると言われるの毛嫌いしてテナーに持ち替えたソニー・スティットには、真っ向からアルトでパーカーの曲に挑んでもらおう。
レーベルは? 数々のMJQの名録音を手がけてきたアトランティックがいい。これなら名録音も期待できるぞ!
そして、ついに夢の共演が現実となり、Stitt Plays Birdというタイトルのビバップの名盤が誕生した。全曲パーカーの曲で統一され、ステレオ録音された。
その後.....。アトランティックレーベル60周年にあたる2006年に、待望のオリジナルマスターからの最新24ビットリマスタリングにより、見事に蘇った音質のCDが、ワーナー・ミュージックから紙ジャケット使用でリリースされた。このアルバムは、スイングジャーナル第40回ジャズディスク大賞最優秀録音賞(リマスタリング部門)の栄誉に輝いた。 ーDjango
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