Murphy:「Djangoくん、今回はデューク・エリントン(Duke Ellington)について教えてほしいんだけど。CDもたくさん出ているようだし、どれから聴けばよいのか、さっぱりわからないんだ。以前に2〜3枚CDを買ったことはあるんだけど、どちらかといえばあまりピンとこなかったようだね。」
Django:「デューク・エリントン(Duke Ellington)入門には、古い年代から順を追って聴いていくのが一番。とにかく一枚目は中途半端に選ばない方がいい。」
M:「古い年代というといつ頃なの? まさか戦前からって言うんではないだろうね。」
D:「もちろん戦前からだよ。」
M:「ということは、1930年代ぐらい?」
D:「オーケー(Okeh)レコードに吹き込んだ頃だから、1927年。その頃から聴く方がいい。Murphyくんは、この間からニューオリンズ・ジャズも聴き始めただろう?」
M:「あれから、けっこう聴いているね。」
D:「それならそろそろデューク・エリントンを聴き始めればいい。エリントンを聴く前に、まず最初は、ニューオリンズ・ジャズに親しむ。そのあと、ニューオリンズ・ジャズを聴き慣れた耳で、デューク・エリントンの1920年代の録音から聴き始める。その後、順を追って30年代から40年代、そして戦後の1940年代後半から50年代、60年代へと聴いていくのが一番いい。とにかくニューオリンズ・ジャズに親しむこと。そして耳が少し慣れてきたときに、デューク・エリントンを聴くと、それはもう新鮮そのものに聴こえてくる。その感覚が、1930年ごろの当時の人たちがエリントン楽団に抱いたものに近い。
デューク・エリントン楽団も、最初はニューオリンズ・ジャズをベースにしている。しかし、単なるニューオリンズ・ジャズのコピーではない。そこを出発点とし、それらのイディオムを活用して、新しいことを試みようとした。言葉のなかには、擬態語や擬声語というのがあるけど、そういった新しい言葉の表現も彼らのサウンドに存分に織り込んだ。古いニューオリンズのイディオムを基本に、いわばそれらを絵具とし、さまざまな色の絵具を組み合わせて、素晴らしい色彩豊かな絵に仕立て上げるというのが、ボクのエリントンに対するイメージだ。エリントン楽団は、個人のスタープレーヤーに頼ることなく、楽団員全員が集団でこのバンド独自の音楽を作り上げていく。個人の自発的なアドリブ演奏に依存しすぎず、個々の楽器のサウンドをブレンドしていく手法を用いた。ミュートトランペット、クラリネット、トロンボーン、サックスなどが対立せず融合して、新しいサウンドを作り出す。
1930年頃から年代順に聴いていくとそのあたりのエリントンならではの独自の手法が手に取るように本当によくわかる。エリントンがどうしてこれだけの名声を得たか? その答えは、1930年代の演奏を聴けばきっと謎が解けるだろう。エリントン楽団の演奏は、それぞれの曲ごとにイメージが異なり、個性豊かなので、聴き続けても退屈しない。実にバラエティー豊かな数多くの名曲を作曲した。新しいアイデアや曲想が、年代順に次々と表出される。ニューオリンズ・ジャズが自然発生的でしかも自由に変形しながら発展してきたのに対し、エリントン楽団の音楽は、きわめて造形的で、いわばエリントンというデザイナーにより、全く新たな独自のジャズサウンドに生まれ変わった。それと、ニューオリンズ・ジャズを聴いてこの30年代当時のエリントン楽団を聴くと、7人編成のニューオリンズバンドからビッグバンドへの移行が、ごく自然に感じられる。というのは、当時のビッグバンドは、12名程度の編成であり、バンジョーも入っており、オリジナル・ニューオリンズ・ジャズバンドの発展型であったとも思えてくる。
The Duke: The Columbia Years 1927-1962というCD3枚組のボックスセットが、米国SONYレーベルから2004年にリリースされたが、そのアルバムを最初から順を追って聴いたとき、改めてエリントン楽団の素晴らしさがわかったように思った。もちろんこれまでに断片的にエリントンのアルバムを聴いてきたが、年代順に聴いたのはこれが最初だった。それまではどちらかといえば、60年代以降のアルバムを中心に聴くことが多かった。ところが、このボックスセットで初めて体系的に戦前の演奏を聴いてみて驚き、これは戦前の30年代当時から最高のオーケストラだと思った。CD3枚もあれば、連続して聴き続けるのは普通はかなり苦しいが、このボックスセットは、退屈するどころか、どの曲も新鮮で、1曲終わればまた1曲聴きたくなるという風に、気がつけば一気に全部聴いてしまったぐらい、惹きつけられた。」
M:「戦前のアルバムは録音が古くて聴くに耐えられないと思っていたけど。でも、Djangoくんの話を聞くと、音質もそんなに悪くなさそうだね。それよりもまず演奏内容面で価値があるということか。どうせ聴くならステレオ録音の方がいいと思って、なるべく新しい年代のアルバムを選ぼうかと実は内心思っていた。」
D:「戦前の録音といっても、やはりそこはCBS。メジャーレーベルのなかでも、トップレーベルだけあって1930年代の吹き込みでも、十分鑑賞に耐えられる音質だよ。もちろん、モノラルだけど。」
M:「エリントンといえばA列車で行こう(Take The 'A' Train)が有名だね。」
D:「もちろんこの曲もボックス・セットに収録されている。1952年録音で、実力派女性シンガー、ベティ・ローシェ(Betty Roche)が歌っている。この曲は、B. Strayhornの作曲。A列車で行こうはエリントン楽団のテーマ曲で余りにも有名だが、A列車とは、NYのブルックリン東地区からハーレム経由、マンハッタン北部行きの地下鉄のこと。1941年の初演、ベン・ウェブスター(ts)版が極めつけだが、こちらの52年版も、ベティー・ローシェのスキャット付きヴォーカルが入るロングバージョンで、甲乙付け難い名演だ。他にこのアルバムには、The Mooche(1928)、In A Sentimental Mood(1935)など、代表的なエリントン・ナンバーが数多く入っているが、そのなかでも名曲、スイングしなけりゃ意味がない(It Don't Mean A Thing)は、戦前のエリントン楽団の名シンガー、アイヴィ・アンダーソン(Ivie Anderson)が歌っており、ぜひこのBoxSetに収録されている1932年当時の録音でこの曲を聴いてほしいね。とにかくこのセットは価値ある愛蔵版だ。」
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The Duke Ellington / Duke: The Columbia Years 1927-1962 Box Set(CD3枚組)U.S. Sony
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