Murphy:「Djangoくん、いきなり質問するけど、ジャズに名曲はなし、演奏がすべて、と誰かが言っていたように思うんだけど。どう思う。」
Django:「確かにジャズの場合、アドリブが重要だよ。でも、原曲が魅力的だと、当然アドリブもそれに触発されて良くなるし、やはり原曲はとても大切だと思うね。だからジャズに名曲なしというのは、アドリブ演奏の重要性を強調しただけだと思うな。」
M:「やっぱりそうか。」
D:「かつて60年代以降、フリージャズが流行ったころは、原曲の面影すらなかった演奏もみられたけど、80年代以降は、ふたたびかつての原曲を大切にする、オーソドックスな4ビートでの演奏に回帰していったんだ。その頃から、ジャズ・スタンダードといわれる名曲をふたたび採り上げるプレーヤーが増えた。そういうスタンダード・ナンバーは、みんながよく知っている曲だから、わかりやすく、なによりメロディを口ずさめるし、親しみやすいんだ。それと、もう一つ大切なことは、ジャズのアドリブは、原曲のコード進行にのっとって演奏されるから、やはり原曲の構造が非常に大切だと思うね。」
M:「なるほど。そうすると、ジャズを聴くには、まず自分の好きな曲を選んで聴いていけばよいということ?」
D:「そのとおり。例えば、スター・ダストが好きだとすれば、そこから入り、誰かの演奏を聴いていけばよいと思う。そうすると、次第にプレーヤーの演奏スタイルの違いがわかるようになってくる。原曲を知っているからその違いがよくわかるんだ。ところで、Murphyくん、もともとジャズ・スタンダードは、歌ものが多いんだよ。ガーシュインやリチャード・ロジャースなど、数々の名曲を作曲しているんだけど、大半が歌なんだ。だから覚えやすくて印象に残るんだ。20世紀を振り返れば、本当に優れた後世まで愛される数々の名曲が生み出されたんだ。それは、ボクたちにとって宝だね。まちがいなくクラシックになるだろう。そういった歌ものは、メロディーラインが印象深くて、おまけに曲の構造もジャズ演奏家にとっては魅力的なんだよ。」
M:「さっきからDjangoくんが言っている、「曲の構造」ってどういうこと?」
D:「つまり、コード進行だよ。そのコード進行がいろいろな曲を生み出すんだ。その曲を演奏できるということは、テーマを演奏するだけでなく、アドリブプレイも含まれるんだけど、アドリブはコード進行に基づきプレイするから、コード進行を頭に入れておかなければならない。ジャズにとって、コード展開は、最も大切な要素だね。」
M:「そうか。コード進行がわかっているからアドリブができるということだね。」
D:「そのとおり。だから、ブルースなんかは、コード進行が決まっているから、打ち合わせなしに、すぐにジャム・セッションができるんだ。」
M:「ところで、Djangoくん。今回は誰の曲を選んだの?」
D:「アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)作曲のワン・ノート・サンバ(One Note Samba)。この曲は、曲の1つのモチーフでメロディが変わらず、コードだけが変化していく、面白い曲だよ。」
M:「ああ知っているよ。ボサノバだね。Djangoくん、ボサノバもジャズなの?」
D:「大きくみれば、ジャズだよ。ジャズの影響を色濃く受けているという方が適切かな。」
M:「そういえば、海の向こうのブラジルでは、リオのカーニバルが昨日まで開催されていたね。」
◇◇◇
アントニオ・カルロス・ジョビンは、ボサノバの創始者であり、「ワン・ノート・サンバ」をはじめ、「イパネマの娘」、「ウェイヴ」、「コルコヴァード」など、多くの名曲を残したブラジルの作曲家。ボサノバの演奏家としては、ご存知「スタン・ゲッツ」が、多くの名演奏を残している。ギターのチャーリー・バードとの競演アルバム「ジャズ・サンバ:スタン・ゲッツ&チャーリー・バード」は、後のジャズ・ボサ・ブームの火付け役となった。
ジャズ・サンバ
~ スタン・ゲッツ&チャーリー・バード ユニバーサルクラシック
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