Murphy:「ハワイの友人から、最もジャズらしいアルバムを探しているんだけど?って聞かれたんだけど。Django くんならどう答える?」
Django:「それはむずかしいね。ジャズは時代によって様々な演奏スタイルを持っているからな。どのあたりのジャズを聴きたいかで、選曲も変わるし。なにか参考になるものある?」
M:「そうだね。その人が言っていたのは、ホノルルのカイムキ・タウンにある古いカフェでコーヒーを飲んでいたら、BGMでジャズが流れていたんだって。ものすごくかっこいいフレーズだと思ったらしいよ。」
D:「ああ、カイムキ・タウンか。古いお店がけっこうあるところだね。そのフレーズって、みんな知っているぐらい有名なフレーズかな?」
M:「そうらしいよ。以前にも聞いたことあるって言っていたね。一度聞いたら忘れないくらいシンプルだって。そのカフェが50年代風のインテリアで統一されていて、その曲が流れたとたん、すごくその場の雰囲気に溶け込んだそうだよ。それで、家に帰って、急にジャズを聞きたくなったらしい。できれば、その時流れていた曲が入っていたらいいんだけど、と言っていた。彼はもともとゴスペルが好きなんだ。」
D:「そうか、だいたいわかってきた。そのフレーズって口ずさめるぐらい?」
M:「さあ、それはどうかわからないな。」
D:「じゃあ、その曲が入っているアルバムを選んだらどう?」
M:「そう言っても、Djangoくん、その曲、わかるの?」
D:「およその検討はついている。たぶんレーベルは、ブルーノートじゃないかな。」
M:「ああ、あの有名なブルーノート・レーベルね。そういえば、これまで一度も、ブルーノートのアルバムは、採り上げていなかったね。ところで、その曲はなんていう名前?」
D:「まだ、少し迷っているんだけど、他に何か言ってなかった?」
M:「そうだなあ。覚えてないなあ。」
D:「よし。それじゃあ、アルバム強引に決めよう。ゴスペルが好きだと聞いてピンときたんだ。その曲は、モーニン。演奏は、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ。ブルーノート4000番台のはじめで、4003番だ。」
M:「アートブレイキーね。聞いたことあるな。ボク実は、ブルーノートのアルバムはほとんど持ってないんだ。モーニンっていう曲、ボクでも知っているかな?」
D:「もちろん。モダンジャズ史上で最も人気の高い曲だよ。いわゆるファンキー・ジャズっていうカテゴリーに入るんだけど。この曲、1958年の吹き込みで、当時一世風靡した大ヒット作。かつてソバ屋の出前持ちまでが口ずさんでたっていうのが伝説になっている。そのくらい流行った曲。」
M:「ああ、思い出した。ソバ屋で。あの曲か。知っているよ。曲名を知らなかっただけだね。」
D:「今でも、ライブでとても人気があるね。ウィントン・マルサリスがリンカーンセンター・オーケストラを統率して来日したコンサートで、アート・ブレーキー特集をやったんだけど、モーニンが始まると、会場は大拍手。みんなこの曲の演奏を待っていたんだね。それから、昨年春、ルイス・ナッシュと会った時に、その年の秋のライブは、50年代のハードバップ全盛時代の有名な曲をシリーズで採り上げる予定だと言っていた。美術館で名画を見るように、50年代ハードバップ・ギャラリーという企画にしたいと言っていたね。それで、その秋のライブでは、50年代ギャラリーとして、モーニンも演奏したんだけど、会場の拍手はすごかった。みんな、このモーニンが今でも大好きなんだ。ところで、その時のルイス・ナッシュの編成したグループの演奏は、本当に素晴らしかったね。」
M:「よし、このモーニンの入っているブルーノートのアルバムを彼にすすめるよ。ところで、いつも聞くけど、この曲は誰が作ったの? アート・ブレーキーだろう。」
D:「いや、違うんだ。ジャズ・メッセンジャーズのメンバーでピアノのボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)の作曲。 そうそう、Murphyくん、その人に伝えておいて。確かにこのアルバムは大ヒット作で、名盤なんだけど、ジャズはこれだけではないからって。それに、このモーニンは、もう一つ有名なライブアルバムがあるからね。そちらの方のタイトルは、サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ 。」
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モーニン+2
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