Django:「ジャズスタンダードのなかでも名曲中の名曲といえば、コール・ポーター(Cole Porter)作詞・作曲の、恋とはどんなものかしら(What Is This Thing Called Love?)だろう。この曲は、ミュージカルWake Up and Dreamのナンバーで1929年に作られた。一聴しただけで、思わずいい曲だ!と、誰もが思ってしまう。これまでにも多くのジャズヴォーカリストが歌っている。男性ではメル・トーメ、フランク・シナトラ、女性では、エラ・フィッツジェラルド、ヘレン・メリルなどが名演を残している。」
Murphy:「確かパーカーもこの曲を録音していなかった?」
D:「そう。チャーリー・パーカーも、1952年にハリウッドでこの曲を吹き込んでいる。ノーマン・グランツによる伝説のジャズセッションで、オスカー・ピーターソン(p)、バーニー・ケッセル(g)らとの共演だったね。」
M:「実はこの曲でボクはジャズを好きになったんだ。今回は誰のアルバム?」
D:「名曲だけにこの曲のアルバムを選ぶのはむずかしいけれど、今回は最新録音のなかから選んでみた。原曲の持ち味を大切に、あまり崩さずストレートに演奏し、リラックスしたスイング感が持ち味のテナー奏者、スコット・ハミルトン(Scott Hamilton)が、2005年に吹き込んだアルバムで、タイトルはバック・イン・ニューヨーク(Back in New York)。
このCDは、数多いスコット・ハミルトンの録音のなかでも、ひときわ精彩を放つ
アルバムだ。以前に採り上げた注目のピアニスト、ビル・チャーラップとの共演で、コンコード・レーベルから2005年にリリースされたもの。スコットはオールドスタイルのテナー・マンで、くつろいでジャズを聴きたい人や、心温まる演奏を求めている人に最適。
実は、スコット・ハミルトンを知ったのは、今から20年以上前の、1980年頃だった。もちろんLPレコード時代で、当時コンコード・レーベルは輸入盤しかなかったけれど、フュージョンに飽きて、もう一度アコースティックなサウンドを求めるようになった頃だった。最新録音なんだけど、コンコード・レーベルは古き良きジャズの香りを残しており、スイング系や中間派、往年のジャズプレーヤーのアルバムを続々と発売していった。特に、50〜60年代に活躍したジャズギタリストのアルバムも勢力的に録音が開始された。その頃、夢中でコンコード・レーベルのLPを買い集めた。もちろん、最初はこのレーベルのことを全く知らずに、店頭の輸入盤バーゲンコーナーで偶然見つけ買ってしまったわけだが、家に帰りレコードに針をおろした瞬間、これだ!、と思った。うれしかったね。そのレコードがスコットハミルトン2 だった。あれから随分時が経過した。2005年リリースのバック・イン・ニューヨークのジャケットを見てつくづく思う。
一言でいえば、コンコードレーベルは、フュージョン全盛時代に、もういちどアコースティックでスイングするジャズアルバムを市場に送り出したわけだ。そんななかで、スコット・ハミルトンは次々にアルバムを発表し、コンコードレーベルの看板プレーヤーとなった。」
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