Django:「今日は主人に連れられて、旧大宮通りを南へ進み、北山通りを渡り、そのまままっすぐ下って行った。しばらくすると、大徳寺前に到着。その後北大路の交差点を渡り、さらに南下した。鞍馬口通りにさしかかると右折。そのまままっすぐ鞍馬口通りを西へ歩いた。このあたりは商店街で、昔からの店が建ち並んでいる。八百屋さんをこえたあたりから、コーヒーの香りが漂ってきた。ボクは嗅覚が人間より発達しているから、かなり遠くからでも嗅ぎ分けることができる。ああそうか、いつものコーヒー屋さんに珈琲豆を買いに行くんだ!。
自家焙煎コーヒーのガロという店。主人が言うには、ここのコーヒーが一番おいしいって。お店のお兄さんがドアを開けて店の前まで出てきてくれた。主人は、いつものように300g注文した。匂いでオリジナルブレンドだとわかった。店内からジャズが聞こえてきた。小さな店だけど、珈琲に対するこだわりは半端じゃない。珈琲豆の種類は豊富で、名機ポンド釜直火型焙煎機で丹念に焙煎しているらしい。店の入り口付近には、ジャズのライブ情報が溢れている。この店の2階では定期的にライブが開催されている。京西陣・町家で一番小さなLIVEと書いてある。
ここから家まで約25分。途中、鞍馬口通りでいろんなお店に出会った。おもしろい招き猫を発見。少し行くと、ボクの鋭い嗅覚がニッキと抹茶に反応した。茶洛というわらび餅の店だった。この店には多くの観光客が訪れ、時々売り切れの札が出る。うちの主人はここのわらび餅未体験らしい。
家に帰ると、珈琲の香りが部屋中ただよった。主人は棚からレコードを取り出した。珈琲を一口飲んだ後、レコード盤をターンテーブルに置き、針をセットした。ギターの音色が聴こえた。まろやかで繊細な響きはジム・ホールに違いないと思った。
アルバムタイトルは、Jim Hall in Berlin。1969年6月にベルリン市内のスタジオで録音され、MPSレーベルからリリースされた。パーソネルは、ジム・ホール(g)、ジミー・ウッド(b)、ダニエル・ユメール(ds)。ホールが単身ベルリンに渡り、現地のリズム陣と演奏したアルバム。」
Murphy:「ジム・ホールのリーダー・アルバムで、ギタートリオ編成なんだね。」
D:「そのとおり。実はこのアルバム、ドイツのジャズ評論家兼プロデューサーのヨアヒム・E・ベーレントがプロデュースしたもの。LPレコードのライナーノートに、ベーレントがその時の状況について詳しく書いている。簡単に紹介すると、1960年代の後半、ギターアルバムは過剰とも言えるほど反乱していた。しかし、ジム・ホールのリーダーアルバムは一枚もなかった。ベーレントも認める現代(当時)最高のジャズギター奏者であるにもかかわらず。そこで、彼自らがプロデュースしたわけだ。」
M:「意外だね。当時はそうだったのか。今ではボクでもジム・ホールの存在は知っているし、リーダーアルバムがいっぱい出ているのに。」
D:「ベーレントは、ライナーノートのなかで、この吹き込みテープを10回以上聴き直した結果次のように述べている。
『芸道を極めつくした名人にしかみられない洗練の極地ともいうべき単純性を発見することができた。(ヨアヒム・E・ベーレント(油井正一訳)、LPレコードライナーノートより)』
レコードのB面は、I'ts Nice to Be With Youという曲で始まった。この曲は、ホールの奥さんが作った曲らしい。昼下がりのひととき、珈琲の香りに満ちあふれた部屋で、このレコードが流れると、実にリラックスする。ジム・ホールのギターは、音を吟味し、単純化の極地ともいうべき音楽を奏でる。ベーレントも言っているように、これほどのシンプルな演奏は、一流のアーティストにしかみられないものだ。単純でしかも的確な音を選ぶ。そのサウンドがシンプルであるからこそ、ボクの耳がしっかり受け止め、一音たりとも聴き逃すまいとする。いくら聴いても飽きない。」
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