最近のデジカメは、発売と同時にメーカーが十分な供給量を確保している。大半の新製品は、発売直後でも大半が予約なしで買える。かつてフィルムカメラの時代は、発売直後はなかなか手に入らなかった。デジカメは、日進月歩で寿命が短く、おそらく最も売れる時期は発売直後の1〜2ヶ月で、4〜5ヶ月後には売り上げが鈍りだし、下降線をたどるものが多い。だから、メーカーも発売直後から在庫を切らさないように十分な供給量を確保しているのだろう。
ところがそんななかで、近年めずらしく発売直後から品薄状態のデジカメがある。キャノンのPowerShotG7だ。どこの店でも在庫がなく、大手量販店でも現在2〜3週間待ちの状態である。店頭で聞けばかなりの人気商品だと言う。
このカメラは、最近のデジタル一眼レフラッシュの影に隠れて、雑誌などでも、まだあまり紹介されていない。でも店頭ではデモ機に注目している人が多い。このカメラに関心を持つ人は、おそらくフィルムカメラ時代からの写真愛好家だろう。現在主流のコンパクトデジカメとは姿形がかなり異なる。最近のコンパクトデジカメは大半が大幅にスリム化され、重量も100g台で大変軽い。もう、限界まで小さくなったという感じだ。これ以上縮小されると、持ちにくく、撮影が一層困難になる。レンズは屈曲型も開発され、ズームでも伸び縮みしないものもある。
久々にカメラらしい雰囲気を持ったモデルだと思わせるのがこのG7。どちらかといえば「ふつう」のカメラという感じだ。他のコンパクトデジカメがフィルムカメラの面影から相当離れていったので、かえって今ではG7のような「ふつう」のデザインは新鮮だ。正面から眺めてもまとまっている。上面には左右にクリック感触のよいダイヤルが2つ並んでいる。大半のカメラが省略してしまった光学ファインダーも健在だ。ブラックフェイスのボディは金属のしっかりした大変つくりのよい質感を持っている。カメラを構えたときの安定感がなにより優れている。カメラの底面を見ると、made in Japanと書いてあった。以前はあたりまえであったが、最近は本当にジャパン製が少なくなった。
重量は、300g以上あり、十分な手応えがある。重すぎず軽すぎずといったところか。このカメラは、ボディの左右にストラップをつけて首からぶら下げるようにできている。シャッターボタンの感触もよい。カメラはシャッターを押したときの気持ちよさが大切だ。
最近のデジカメはどのメーカーもそこそこの写りのよい画質を持っている。写りの悪いモデルを探す方が大変だ。きれいに写るという面では、どれも水準以上をクリアーしている。だから、G7の写りがよいといっても、他のモデルもそれなりによくできているので、突出した長所にはならない。でも、肝心の写す道具としてのカメラの形状や質感、レバーやダイヤルの操作性などは、大差があり、そういったユーザーインターフェースの部分では、断然このモデルが光っている。このあたりは実際に手に取り、使ってみないとわからない部分だ。
今回新たにボディ上面に配置された感度(ISO)設定ダイヤルは、他に例を見ない独自のものだ。デジカメはフィルムカメラと違って、感度を自由に変えられるのが特徴であるのに、これまでは、液晶ディスプレイを見ながらの、わずらわしい操作が必要であった。このダイヤルは重宝する。また、液晶ディスプレイ上での、絞り、シャッタースピード、露出補正などの変更どきのビジュアルインターフェースも実にうまくできている。絞り優先時に、ダイヤルを回せば、ディスプレイ上に絞り値のスケールが表示され、これまでカメラ経験の豊富なユーザーとっては、大変わかりやすく気持ちのよい操作ができる。
オートフォーカス性能については、メーカーごとに未だにかなりの能力差があるように思う。オートフォーカスの反応が鈍い機種は、スピードの遅いパソコンを使っているような気分だ。一般にコンパクトデジカメは、デジタル一眼レフに較べ、フォーカスのレスポンスが遅い。一眼レフはデジタルでも従来のフィルム一眼レフと同様にレンズのとらえた実像からフォーカスを検出する方式でかなり高速なのに対し、コンパクトデジカメはCCDの受光した画像のコントラストを検出するため、どうしても遅くなってしまう。G7は1点測距、AiAF測距、顔認識測距という3つのフォーカス方式を選択できるが、いずれもレスポンスは、まずまずといったところだ。コンパクトデジカメのなかではけっこう速い方の部類に属すると思うが、デジタル一眼レフに較べると反応はやや遅い。瞬間を切り取るスナップ撮影時の速写性という点では、まだまだ鈍い感じだ。このあたりは、現在のコンパクトデジカメの宿命で、今後の課題だろう。ただG7は、合焦すればピントを外すことは現在のところ全くなく、迷うこともない。だから一応信頼性は高いと言える。
コンパクトデジカメをマニュアルフォーカスで撮影する人はあまりいないと思うが、G7の場合、実はけっこうスムーズにマニュアルでフォーカスを合わせることができる。ダイヤルを回せば、液晶ディスプレイ上に拡大画像と距離計が表示される。現在のコンパクトデジカメはCCDサイズが大変小さく(大半のモデルが1/2.5インチサイズで、G7は少し大きな1/1.8インチサイズ)広角側のレンズの焦点距離はG7の場合、7.4mmである。これは35mmフィルムカメラでは超広角レンズに相当する。従って被写界深度(ピントの合う範囲)は大変広く、G7を広角側で使う場合は、大半パンフォーカスで事足りることになる。つまり街角でのスナップショットの場合は、G7をマニュアルフォーカスに切り替え、距離目盛りを3mに固定しておけば、1mから無限大まで常時ピントがあうということだ。オートフォーカスが必要なのは、近接と望遠域で使うときだけだ。デジタル一眼レフの場合は、CCDが大きなAPSサイズなので、そうはいかない。このように考えると、コンパクトデジカメを広角で使う場合は、けっこう速写性があり、スナップショットには最適だと言える。
かつて90年代のはじめにコニカヘキサーが登場した。そのヘキサーは、初めて自分がコンパクトカメラのなかで信頼をおいたカメラだ。以来現在まで未だに現役で、軽量でコンパクトではあるが少し大きなこのカメラは、海外でもずいぶん使ってきた。ヘキサーが発売された頃に、京セラが出したコンパクトカメラはより高級仕様で、ヘキサーよりはるかによく売れたが、自分では最後まで使う気になれず信頼を寄せることができなかった。その理由は、オートフォーカス性能だ。ヘキサーのフォーカス性能はレスポンスも速く実に安定していた。それに較べ京セラのものは安定感がなかった。だからデジタルになっても、オートフォーカス性能はいつも一番重要なものだと思っている。ところがコンパクトデジカメの場合は、広角側ではもはやパンフォーカスになってしまったのだから、ある意味では絶対にフォーカスを外さない最強のスナップショットカメラであるといえる。だから、コンパクトデジカメの場合は、マニュアルフォーカスが即座に設定できるかどうかは、案外大切なことだ。G7は大変便利なマニュアルフォーカス設定機能を持ち、実用的であるが、開発者はおそらくこのあたりの事情を意識して、オートフォーカス精度が相当高いにも関わらず、使いやすいマニュアル設定用ユーザーインターフェースをあえて用意したのではないかと思う。
実は、このG7を待ち歩いているときに、90年代に購入したヘキサーのことをふと思い出した。ボディサイズは全く違うし、レンズも違う。G7はズームに対し、ヘキサーは35mmの単焦点だ。でも、道具として使ったときの自分の気持ちが、G7もヘキサーもなぜか不思議にも似ていた。それはカメラとしての気持ちのよい操作とボディの剛性などからくる信頼感なのかもしれない。G7は広角側が35mmのF2.8で、28mm領域がないのが残念だという人もいるが、自分にとってはG7の電源ONと同時に、いつもデフォルトで35mmレンズであることの方が都合がよく、長年ヘキサーを使い自分には一番慣れた35mmだから、余計にお互い似ており、使いやすいと思ったのかもしれない。それと、首からぶら下げたときの重量感も似ている。ヘキサーとG7は、ともに優れたスナップショットカメラだ。本当は、今はなき旧コニカからヘキサーのデジタル判が発売されるのを密かに期待していたが、ソニーに吸収されて、可能性は相当低くなったので、とりあえずはこのG7を当分のあいだヘキサー後継機にすればよいと思った。
(2006年12月2日投稿の再掲載)
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