Murphy:「梅雨に入りかなり蒸し暑くなってきたので、このへんで涼しいジャズを紹介してくれる?」
Django:「涼しいジャズか、それこそMurphyくんの得意なジャンルのハワイアンの方がいいんじゃない?」
M:「いや、ウクレレなどは、夏向きであたりまえだから、もう少し本格的なジャズの中で選んでくれる? ボサノバも夏向きの定番だからカットだ。」
D:「そうなるとますます候補がなくなってきた。」
M:「もともとジャズは季節などあまり関係ないと思うし、Djangoくんの独断で選んでくれる?」
D:「それなら、あくまで個人的なイメージで。ズバリ、レスター・ヤング(Lester Young)だね。レスターはやはり戦前の演奏の方がいいし、ベイシー楽団を離れてのコンボ演奏というと、ニューヨークのコモドール(Commodore)レーベルに吹き込んだ1938年の演奏がいい。レスター・ヤングはどちらかといえば、コールマン・ホーキンスなどと違ってクールな演奏だから、この季節には意外に合うかも。」
M:「コモドールといえば、確か戦前にNYで開いていたジャズ専門のレコード屋さんだったような気がするけど。」
D:「そのとおり。Murphyくん、どこで知ったの?」
M:「小川隆夫さんの"ブルーノートの真実"っていう本を、以前に読んだときに、そのなかで出てきたのを覚えている。ブルーノートの創始者であるアルフレッド・ライオンがNYに渡ったころにあったレコード屋で、その店主が販売だけでは飽き足らず、ついにプロデュースまで行い、コモドール・レーベルを発足させたと書いてあった。」
D:「そう。Commodore Recordsは、当時NYのミッド・マンハッタンにあった伝説のジャズレコード・ストアの店主であるMilt Gablerが、1938年に発足させたジャズレーベル。そのレーベルから、1938年にThe "Kansas City" Sessonsというアルバムがリリースされた。Lester Young(ts,cl)、Buck Clayton(tp)、Eddie Durham(tb,eg)、Freddie Green(g)、Walter Page(b)、Jo Jones(ds)という6人のコンボ編成で吹き込まれた。
そのなかで、今回一曲だけ選ぶなら、夏向き特選ジャズと称して、ゼム・ゼア・アイズ(Them There Eyes)をピックアップした。この曲は、 Sweet Georgia Brownで有名なMaceo Pinkardという人の作曲。他にSugerなども有名。Them There Eyesという曲は、1930年にDoris Tauber、William G Traceyとともに作られた歌で、これまでサッチモやビリー・ホリデイなども吹き込んだ。今回のレスターのアルバムでは、ベイシー楽団で鉄壁のリズムギターを弾き続ける、あのフレディ・グリーン(Freddie Green)が、この曲だけなんとヴォーカルも担当しているから驚いた。それで、その歌がなかなかうまいんだ。当時のSPレコードだから3分以内でまとめられているんだけど、ムダが全くない。レスターのテナーも快調。CDでは別テイクも収録されている。CDにリマスターされ、1938年とは思えないほどの、なかなかいいしっかりした音質。他に1944年のセッションも入っているけど、やはり1938年のセッションがボクは好きだね。」
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