Django:「Murphyくん、今回はだれもが知っている名曲、サマータイム(Summertime)を選びました。」
Murphy:「サマータイムね。みんな知っているよ。」
D:「そうだろうな。誰の作曲かわかる?」
M:「さあ、作曲家までは知らないけど。かなり古い曲のようだね。作曲者はジャズ・ミュージシャン?」
D:「いや違う。これはクラシック好きの人でもよく知っている作曲家だよ。」
M:「本格的な作曲家かな。でもアメリカ人でしょう?」
D:「そう。ジョージ・ガーシュイン(George Gershwin)という人。20世紀前半のアメリカを代表する作曲家だね。おそらく、彼の作品はジャズ・ミュージシャンにとって欠かせないものだろう。サマータイムは、彼の有名なオペラ、「ポーギーとベス」のなかで歌われた曲で、漁師の妻クララが歌う子守歌だよ。」
M:「へえー、子守歌だったの?」
D:「そう。だからスローテンポなんだよ。黒人霊歌の「時には母のない子のように」をヒントに作曲したらしい。」
M:「ボクもこれまでにサマータイムは、いろんな演奏を聴いたと思うけど。改めて聴いてみようか。おすすめは?」
D:「これはやっぱり、歌だから、ジャズヴォーカルのなかから選ぶ方がいいね。ガーシュインは、素晴らしい歌曲をたくさん作曲しているよ。ジャズシンガーにとっては、いろんなジャズのスタンダード曲をマスターし、自分のレパートリーとして増やしていきながら、いずれガーシュインが歌えるようになることが、1つの目標だよ。だから、ガーシュインの名曲集をレコーディングしている歌手は、間違いなく実力派で、一流だね。」
M:「たとえば、誰がいるの?」
D:「名曲集は、ソング・ブックといわれるんだけど、まず、エラ・フィッツジェラルド。それと、クリス・コナー。この二人のソング・ブックは、間違いなく傑作といえる。ガーシュインの歌を、30曲以上歌える人はそう多くはないよ。」
M:「そうか、ソング・ブックか。...で、どちらをすすめる?」
D:「どちらもいいよ。今回は、クリス・コナーにしよう。クリス・コナーの、ソングブックのなかで歌っている、サマータイムは、伴奏がピアノトリオでとてもシンプル。ジャズシンガーの実力が最もあらわれるスタイルだね。アルバムでは、「サマータイム」、「ニューヨーク行きの船が出る」、「愛するポーギー」の3曲がメドレーで歌われている。どれもオペラ「ポーギーとベス」からの曲。このメドレーが実に素晴らしい。」
M:「どういう風に?」
D:「「サマータイム」は、しっとりとスローテンポ。次の「ニューヨーク行きの船が出る」はアップテンポで躍動的にスイングする。そして「愛するポーギー」は再びスローではじまる。3曲目の冒頭は、何度聴いても、心惹かれるね。しかも、あのオスカー・ペティフォードがベースを担当しているし、途中で彼の声が聞けるんだ!。」
M:「そうか? ところで、このアルバムは何曲ぐらい入っているの?」
D:「最新版のCDは、全34曲。2枚組。これはもう決定版ということばがそのままあてはまるね。ガーシュインの歌は、聴けば聴くほど愛着が湧いてくる。やはり、歌ものは、ヴォーカルで聴いてこそ、はじめてそのよさがわかると思うよ。それで、そのうち自分にとっての一生ものという、本当に好きな歌が発見できるんだ。」
◇◇◇
クリス・コナーのガーシュイン・ソングブックは、現在2005年版と2007年版(紙ジャケット仕様[Limited Edition])の2種類のCDが発売されている。そのうち2007年版は、倉庫で発見されたアトランティック・オリジナルマスターからの、初のリマスタリングで音質は格段によくなった。1956年、57年、59年録音。(追加の1曲は61年)
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