Django:「Murphyくん、今回もガーシュインの曲を選びました。曲名は、「霧深き日(A Foggy Day)」。霧の日。とも訳されているけど、一般的には、日本でも「ア・フォギー・デイ」とそのまま英語名で呼ばれている。」
Murphy:「ガーシュインは、たくさんの曲を作曲したんだね。今回もヴォーカルのなかから選んでくれるかな。以前はあまりヴォーカルものは聴いてなかったんだけど。このあいだから、ちょっと聴きだしたら、興味がわいてきたなあ。ジャズの歌、って、大人の雰囲気がするよ。ビールやワインにも合うし、CDをかければ、部屋の雰囲気が変わるね。余裕があるっていうか。くつろげるし。お子様ランチのような曲やミュージシャンはもう飽きたし、その点、ジャズはいいね。特にヴォーカルは。」
D:「そうだろう。ジャズを聴けば確実にセンスがよくなるね。昔からデザイナーなんかは好きな人が多い。ジャズを聴いていると余裕がうまれるんだ。ジャズは100年の蓄積のなかで演奏されているんだもの。それは深いよ。でも、一般にジャズを聴いている人って、あまりヴォーカルものを聴かない人が多いようだね。反対にヴォーカルが好きな人は、あまり楽器ものは聴かなかったりして。でも、ジャズって、もともとブルースから始まっているんだから、歌がやっぱり基本だよ。ヴォーカルを聴けば、これまで以上にジャズが理解できると思うね。それと生活のなかにジャズが溶け込んでいくんだ。」
M:「その通り! ボクもそう思うね。」
D:「アメリカでは、そこら中のホテルのバーラウンジでジャズが演奏されているし、グランドピアノが一台だけのラウンジでも、リクエストをとりながら、弾き語りやピアノソロをやっているよ。そこで、ソルティ・ドッグを飲みながら聴いていると、これが驚くほどうまい。」
M:「え?、ソルティ・ドッグが?」
D:「違うよ、もちろん演奏だよ。無名の人がこれだけうまいんだからすごいね。いや、うまいだけでなく、本当に楽しんでいるよ。毎晩ラウンジでピアノを演奏するのがうれしくて仕方がないような表情だね。それと、もうひとつ、お客さんとのコミュニケーション。さりげなく、ユーモアを交えながら、お客さんとの会話を楽しむ。でも、決して出しゃばらない。そこのセンスは絶妙だね。こんな日常の光景が、ジャズの底辺を支え、生活に根づかせているんだと思う。その生活文化こそがジャズなんだ。もちろん、ストリート・ミュージシャンもそうだしね。」
M:「確かにそうだね。Djangoくん、いいこと言うね。でも、どうして、そこでソルティ・ドッグなの?」
D:「ただ好きなだけ。以上、説明なし。」
M:「ところで、今回のおすすめの歌手とアルバムは?」
D:「エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロング」
M:「ついに出ましたね。そろそろ出てくるのでは、と思っていたんだ。そうすると2枚のアルバムってこと?」
D:「と、思うだろう? これが1枚で聴けるんだ。つまり、デュエット。アルバムタイトルは、ズバリ、「エラ・アンド・ルイ」」
M:「へえー、二人のヴォーカルが一枚で聴けるって最高だね。」
D:「そう。このアルバム、すべてのジャズアルバムのなかでも、ボクの最も好きなアルバムの一つ。伴奏がまた素晴らしいよ。ピアノがオスカー・ピーターソン、ギターがハーブ・エリス、ベースがご存知レイ・ブラウン、ドラムスがバディー・リッチ。エラとサッチモのデュエットのサポート役としては最高のメンバーだね。「ア・フォギー・デイ」以外にも、「ヴァーモントの月」、「4月のパリ」、「アラバマに星落ちて」など、名曲ぞろい。さすが、ヴァーヴのノーマン・グランツ。こういった、楽しくて、リラックスして、アットホームで、ユーモアがあり、しかも正統的で、思いっきりスイングして、いつでも聴けて、いつまでも飽きない、素晴らしいアルバムがつくれる、ジャズとは何かを知り尽くした名プロデューサーだね。以上、決定的名盤です。」
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「エラ&ルイ」は、1956年の録音。他に同メンバーによる2枚目のアルバム「エラ&ルイ・アゲイン」も1957年にレコーディングされている。これら2枚に加え、別テイク、さらにオーケストラバージョンも含めたコンプリートアルバムは米国ポリグラムから1997年に発売された。なお、レコーディング状態は50年代当時の最高水準といえるレベルであることから、復刻LPレコードも数度にわたり発売された。
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