Django:「今回は、ジャズ・ベースのプレーヤーが作曲した名曲を採り上げたんだけど。Murphyくん、誰の曲だと思う?」
Murphy:「ベース奏者といえば、ポール・チェンバース、MJQのパーシー・ヒース、ビル・エバンスのグループにいたスコット・ラファロなどを、思い浮かべるんだけど、その中に入っている?」
D:「いや、入っていないよ。他にだれか思い出さない?」
M:「そうだなあ...、あ、そうそう、忘れていたよ。肝心な人、ロン・カーター。ロン・カーターは結構作曲数も多いし、彼じゃない?」
D:「残念でした。ヒントを与えよう。今言ったロン・カーターが、ベース界の大先輩として大変尊敬している人だよ。」
M:「うーん、ますますわからなくなってきた。そろそろ答えを言ってくれよ!」
D:「では、発表します。オスカー・ペティフォードです。曲は、彼の代表作で、ボヘミア・アフター・ダーク。一般にはあまり知られていないようだけど。ペティフォードはモダン・ベースの巨匠といわれる人で、作曲家としても多くの名曲を残しているんだ。他に、ブルース・イン・ザ・クローゼット、タマルパイスなどが有名。アルバムでは、自分のリーダーアルバムより、サイドで演奏しているものの方が知れ渡っているね。例えばMurphy君も知っているだろう、ハスキーボイスで有名なヘレン・メリルの人気アルバム、「ウィズ・クリフォード・ブラウン」や、他に「オスカー・ペティフォードの神髄」「コンプリート・オスカー・ペティフォード・イン・ハイファイ」なんかがよく知られているよ。多くのベーシストに影響を与えたオスカー・ペティフォード は、一般のファン以上にプロのベース奏者から慕われ、いつかはペティフォードのように演奏したいと思うあこがれの人だったんだよ。」
M:「そうか、知らなかったなあ」
D:「ペティフォードはモダン・ベース奏法の確立者で、ベーシストはみんな、彼の奏法を学んだんだ。Murphy君の知っている、ロン・カーターもそうだよ。実は、数年前に、ロン・カーターが来日したとき、念願のペティフォードに捧げるアルバムを録音したと言っていたのが印象的だったね。そのときの情景は、今でも覚えているよ。車の中で、目を輝かせて「今月リリースされるんだけど、このアルバム、スイング・ジャーナルのゴールドディスクに選ばれたんだ」と言って大変喜んでいたんだ。」
M:「へえー、それで。」
D:「「発売はいつなんですか?」と尋ねたら、なんと次の日に発売だということがわかった。それで、明日発売なら、きっと前日にレコード店に入荷してるんじゃないかと思い、急いで買いに行ったんだ。でも、残念ながら手に入らなかった。ロン・カーターは、その新譜が紹介されているスイング・ジャーナルを記念に是非入手したいと言っていたので、後日NYまで郵送したんだ。」
M:「そうだったのか。」
D:「ベースの神様と言われる、ロン・カーターが、自分たちの大先輩のペティフォードのことを想い続けていたんだ。それがやっとアルバムになって、ボクも胸があつくなったね。」
M:「そのアルバムのタイトルを教えてくれる?」
D:「2001年10月に東芝EMIのsomethin'elseというレーベルからリリースされたスター・ダスト(Star Dust)というアルバム。1曲目のタマルパイス(Tamalpais)と4曲目のボヘミア・アフター・ダークはともに、印象に残るメロディーラインで哀愁が漂う名曲だね。」
◇◇◇
オスカー・ペティフォードは、1922年生まれ。1958年に渡欧。1960年コペンハーゲンにて死去。ロイ・エルドリッチやディジー・ガレスピーの楽団を経て、自己のコンボを率いた。モダン・ベース奏法の確立者。代表的アルバムは、Bethlehemレーベルの「オスカー・ペティフォードの神髄」1955年録音、このアルバムに名曲「ボヘミア・アフター・ダーク」が入っている。(このアルバムは入手困難なことが多い。) ここでは、ペティフォードに捧げたロン・カーターの「スター・ダスト」をあげておく。
スターダストロン・カーター (b)、ローランド・ハナ(p) 、 ベニー・ゴルソン(ts) 、 ジョー・ロックス(vibe) 、 レニー・ホワイト(ds) 東芝EMI TOCJ-68053
コメント