コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1
Murphy:「Djangoくん、ようやく第100回を迎えることになったね。いよいよ最終回だね。」
Django:「そう。このシリーズはこれで終わり。」
M:「最終回となると、それなりに選曲にも力が入ると思うけど。でもDjangoくんのことだから、単純に誰でも知っている有名曲を選ばないだろうなあ。」
D:「最後はね、やはりこれぞジャズ!、ビバップを選んでみたかった。でもディジーやパーカーの路線とは違うサウンドを目指したもの。1940年代の始め頃にNYのミントンズ・プレイハウスで、これまでのジャズとは違う新しいジャズのムーブメントが沸き起こった。その中心人物の一人で、これまでの誰とも違うきわめてユニークなピアニストがモンクだった。ドラムのケニー・クラークとともに明日のジャズを切り開いたんだ。そのセロニアス・モンク(Thelonious Monk)が作曲した名曲、イン・ウォークド・バド(In Walked Bud)。この曲は、1947年11月21日、NYのWORスタジオでのブルーノートにおけるモンクの初リーダー・セッション・シリーズの中で吹き込まれたもの。まさに時代の最先端だった。今でも実に新鮮に聴こえる。1947年といえばブルーノートが時代の先端をいく新しいジャズを積極的に発表し始めた頃。そのスタートを飾ったのがモンクだった。
この曲は、その後多くのミュージシャンに採り上げられる。例えば、Art Blakey's Jazz Messengers With Thelonious Monk(Atlantic 1957年録音)、1982年には、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)、ブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)らが参加するArt Blakey & The Jazz MessengersのLiveアルバムKEYSTONE 3の1曲目にも収録された。」
M:「1947年のモンクのリーダー・セッションは、ブルーノートにとってとても重要なものだったんだね。」
D:「その通り。当初はSP盤で発売された。でもモンクのSP盤はあまり売れなかったらしい。50年代に入り、BN5002番(10inchLP)のジーニアス・オブ・モダン・ミュージック(Genius Of Modern Music)とBN5009番のジーニアス・オブ・モダン・ミュージックVol.2(Genius Of Modern Music Vol.2)の2枚のアルバムにまとめられた。その後12インチLP盤で1500番台としてリリースされた(BN1510)。先程も言ったように、ブルーノートは、それまでニューオリンズ・ジャズやブギウギなどを手がけていたが、1947年に新しいジャズ、つまりビバップの録音を開始した。その記念すべきアルバムが今回のもの。最新盤は、かつての5000番台(BN5002)のアルバムジャケットを使っている。タイトルは、コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(Complete Genius Of Modern Music Vol.1)」
M:「そうか。ブルーノートの記念すべきアルバムか。モンクのアルバムというだけで、これまで素通りしてきたけど。でも、モンクのアルバムって、風変わりで聴きづらくない?」
D:「確かにモンクの音楽は、風変わりで個性的かもしれない。初めての人には、よくモンクは敬遠されがち。でも、今回採り上げたアルバムは、決して聴きづらいアルバムではないよ。そうだね、普段、ガレスピーやパーカーなどのビバップに親しんでいる人には全く違和感がないだろう。」
M:「パーカーが好きだったら違和感なしに聴けるのか。」
D:「モダン・ジャズは、パーカーに始まってモンクで終わるといえば、言い過ぎかもしれないけど、ボクは、そういう気がする。モンクはジャズを理解する上で、とても重要な人だね。もしMurphyくんが、これからもずっとジャズを聴けば、いつかそう思うかもしれない。というより、モンクを聴けばもっと世界が開けるかも。モンクは、パーカーとともにビバップを切り開いた人だけど、それだけでは終わらない。これからの新しいジャズにも影響を与え続ける人だと思う。時代が経過すればするほどその革新性とともに音楽的評価は一層高まるだろう。」
M:「だから最後にモンクを持って来たの?」
D:「まあ、そういうことだね。モンクの音楽は不思議な魅力を思っている。最初は取っつき難いかもしれないけど、聴いていけば次第にその良さがわかる。聴けば聴くほど味が出るタイプ。エリントンもそう。モンクとエリントンは、ジャズのなかの正に巨人だね。」
M:「これまでの100回を振り返ってみれば、あまりブルーノート・レーベルのアルバムが出てこなかったね。なにか理由があるの?」
D:「ブルーノートを採り上げるには、今回のアルバムを欠かすことはできないと思っていた。これが出発点だから。当時、ブルーノートの創始者であるアルフレッド・ライオンにモンクを紹介したのが、アイク・ケベック。ここでライオンがモンクの録音に踏み切ったことが、時代の先端を行くジャズレーベルに発展した。このあたりは、原田和典氏のライナーノート(今回のアルバム)にも記載されている。
『ライオンは47年のある日、ケベックを通じてセロニアスモンクの存在を知ることになる。”なんてユニークなピアノなんだ、なんて斬新な曲想なんだ”と感動したライオンは直ちにモンクを録音スタジオに誘い出した。− コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(TOCJ-7003) 原田和典氏ライナーノートより−』
モダンジャズの宝庫ブルーノートはこのアルバムで始まった。ブルーノートはいずれまとめて採り上げるつもり。」
M:「ところで、このシリーズはこれで終わりだからDjangoくんに聞いておきたいと思うんだけど、普段Djangoくんが一番よく聴くアルバムを教えてくれる?」
D:「その時々によって変わるけど。一枚だけあげるならモンクのアルバムだね。」
M:「また、モンクか!」
D:「そう。しかもエリントン・ナンバー」
M:「ああ、まさにDjangoくん好みだね。」
D:「いやいや私好みと言うより、みんなにおすすめできる誰が聴いてもいいアルバムだよ。モンクがデューク・エリントンの曲をトリオで吹き込んだアルバム。タイトルは、Thelonious Monk Plays Duke Ellington。リバーサイド・レーベルに1955年に吹き込んだこのアルバムは、不滅の名演奏だね。無駄な音が全くない。エリントンの曲を弾かせたらモンクが一番いい。
Plays Duke Ellington それにこのアルバム、リズム陣が素晴らしい。ベースがオスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)、ドラムがケニー・クラーク(Kenny Clarke)。このアルバムを聴けば、ロン・カーターが目標にしてきたベーシストが、ペティフォードであることが、なるほど!と、Murphyくんもきっと思うに違いない。弾力性のあるあの太い音。ベースがリズムを刻めば、独特の推進力で音楽をリードしていく。前へ前へと音が出て、それだけで生き生きとスイングする。オスカー・ペティフォードの絶妙な4ビートのウォーキングベースとケニー・クラークのモダンなドラムが織りなすジャズのドライブ感。これがモダンジャズ! まさに元祖だね! 彼らの安定した推進力の上にモンクが乗っかる。ケニー・クラークのドラムは出しゃばらず、彼ら二人と見事に調和する。
曲目は、すべて名曲ぞろい。全部ひっくるめて不滅の名曲だね。全8曲。It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)、Sophisticated Lady、I Got It Bad (And That Ain't Good)、Black and Tan Fantasy、Mood Indigo、I Let a Song Go out of My Heart、Solitude、そしてラストは、おなじみのCaravanで締めくくる。
原曲の香り、雰囲気や良さを最大限に生かしたモンクの演奏。シンプルで聴きやすくてしかも深い。スイングするジャズの楽しさを満喫できる。モンクの奏でるコード(和音)の深みが、色彩の魔術師といわれたあのエリントン楽団独特の"Color"をたった一台のピアノで、他の誰よりも豊かに醸し出す。もはやこれはクラシックだ!と思う。アルバムまるごと『不滅のジャズ名曲』とはまさにこのセッションのこと。
このアルバムで、不滅のジャズ名曲、最終回、締めくくります。」
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