Django:「"ラブラドールが聴いた今日のジャズ"と称して、新連載を始めます。」
Murphy:「そのタイトル、どういう意味?」
D:「Murphyくんのご主人も最近ジャズを聴き始めただろう。うちなんか、ボクがこの家にやってきたときから、ずっとジャズが流れていた。今では結構覚えたよ。そこで、ボクたち二人で、ジャズのことを話し合おうというわけ。
あ、そうそう、ブログを初めて見た人にもわかるように、説明しておくと、僕たち二人は、ラブラドール・レトリバーという犬種。Djangoはボクのことで、通称チョコラブと呼ばれるチョコレート色。Murphyくんは、イエローのラブ。ボクの主人は根っからのジャズ好きで、スイングギターの名手ジャンゴ・ラインハルトにあやかって、ボクをDjangoと命名したんだ。いつも部屋ではジャズが流れている。この4月でボクは3歳になる。この家に来てもう2年半ほどジャズを聴いている。最初はあまり興味なかったけど、そのうち繰り返し聴いていると、自然に覚えるようになった。ジャズってけっこういいもんだ。今では、ジャズは子守歌がわり。ジャズが流れてウトウトしているときが一番快適。ジャズって、リズムがあるから楽しいね。スイング感っていうか、独特のビート感覚がある。いつもL.L.ビーンのマットがボクの居場所だけど、その上でゴロゴロしながらジャズを聴くのが楽しみになったんだ。Murphyくんはどう?」
M:「うちの主人も最近ジャズを聴くようになった。ボクはまだ聴き始めたばかりなんで、正直言ってあまりよくわからない。でも、何かいい香りがするね。Djangoくんのいう、スイング感というかビート感覚というのか、独特のノリがいいね。タイトルの意味はわかった。そうか、そういうことだったのか!」
D:「たぶん、Murphyくんもそのうちジャズが好きになるよ。繰り返し聴いていると、だんだんわかってくる。最初は、何も考えずに気軽に聞いているだけでいいから。そのうち、曲名やアーティスト名なんかもわかってくる。少し、曲を覚えたり、ジャズプレーヤーの名前を知るようになってくると、毎日が楽しくなる。
ところで、さっそく第1回、はじめるぞ。Murphyくんの方から何でも質問して」
M:「実はうちの主人、最近ジャズピアノをかけている。ジャズピアノっていいね。ピアノとベースとドラムの3人編成かな。特にベースのビート感が。」
D:「さすが、Murphyくんいい耳しているね。それってピアノトリオっていうんだよ。」
M:「聴覚なら、ボクたち主人には負けないもんな。Djangoくんにダイレクトに質問するけど、ピアノトリオでのなかで、これぞジャズピアノという名盤を教えてくれる!」
D:「おいおい、いきなり直球を投げるなよ。ジャズピアノだったら最初はなんでもいいんじゃない。」
M:「一番いいジャズピアノのアルバムを主人にすすめようと思って。」
D:「おまえ、飼い主にしゃべれるのか?」
M:「あたりまえだろ。テーブルに置いてあるジャズの雑誌のなかでおすすめのアルバムが載っているページを開いて、"ワン"というだけだよ。」
D:「そうか、新聞や雑誌などを口に咥えて飼い主のところに持って行くのは、Murphyくんの特技だったもんな。」
M:「いきなり、主人にジャズピアノの真打ちといえるものを紹介すれば、三日坊主に終わらずに、気に入ってジャズを聴き続けると思うから。」
D:「なるほど。その戦略はいいね。それなら教えよう。
バド・パウエル(Bud Powell)のピアノトリオで、Bud Plays Birdというアルバム。このアルバム、案外知られていないんだけど、実に素敵だ。何がいいって、アルバムまるごとほぼチャーリー・パーカーの名曲ばかり。パーカーは、アルトサックス奏者で、ビバップの開祖のひとり。一方バド・パウエルはビバップ・スタイルのピアノの開祖。パーカーの没後、1957年の10月から58年の1月にかけて、NYで録音された。レーベルは、Roulette(現在はブルーノート傘下)。ジャズピアノを聴くならこのアルバム、何はともあれビバップを聴くべし!というのが、今日のボクの提言だね。」
M:「聴きづらくない?」
D:「全然問題なし。ジャズピアノの醍醐味、なかでもホーンライクに右手で自在にアドリブフレーズを奏で、左手で、実に見事なリズム感でコードを入れる。これがバド・パウエルのスタイル。1940年代に起こった画期的なピアノスタイル。いわゆるモダンジャズの黎明期だね。このバドが、先輩格のパーカーの名曲ばかり演奏しているのだからこれ以上ベストなものはないぞ。このアルバムを聴き続けると、ビバップのフレーズに親しみを覚えるようになり、次第に霧が晴れたようにジャズがわかってくる。繰り返すけど独特のビバップフレーズは、言葉と同じ。最初は、Murphyくんも人間の言葉がわからなかったけど、今では100ぐらい単語を知っているだろ。近所のポチなんか400から500ぐらいの言葉を覚えているぞ。言葉を覚えると飼い主のいうことがなんでもわかってくる。言葉、イディオムだね。ジャズも同じ、ビバップのイディオムの宝庫は、ピアノではバド・パウエルだ。
ジャズピアノのアーティストのなかで、いわゆるパウエル派と呼ばれる人たちがいる。例えば、現役の長老格として今でもNYで活躍するバリー・ハリスなんかは、まさしくパウエル派の中核を成す人。いまでも、NYの彼が主催するワークショップでは、ビバップフレーズを口ずさむように教えている。ジムホールも言っていたけど、ジャズは言葉だと。だからNYに行けばジャズという言葉に接する機会が多くなり、ジャズ演奏を通じてプレーヤー同士がコミュニケーションできるようになる。言葉がわかれば楽しいぞ。繰り返し聴けばだれでもわかってくる。それに、バップイディオムっていうのは、実にかっこいい。
ベースは、いわゆるウォーキング・ベースという、1小節で4つのビートを刻むのが基本。オスカー・ペティーフォードやポール・チェンバースなどのベースラインは、それだけで生き生きとしたビートがわき起こってくる。ああ、ジャズだ!という独特の感覚が見事に表れる。それにドラムが加わる。ビバップにおけるモダンドラムの開祖がケニー・クラークだ。ジャズは、優れたベース奏者とドラム奏者の二人で音楽の骨格を作り上げる。体が自然にスキップし、動く、音楽に合わせて体がスイングする。その感覚がジャズの一番の基本だ。今日はこのぐらいにしておくから。次回からは、ジャズのアルバムを紹介していこう。但し、断っておくが選定は僕たちイヌの感性で選んだものだから。」
M:「わかった。次回を楽しみにしているから。」
コメント