Django:「このところ、ヴォーカルアルバムの話題が続いているんだけど、ジャズ・ヴォーカルを語るなら、やはりこの人のことをもっと言わないと...。」
Murphy:「だれ?」
D:「第16回に登場したんだけど、もう一度、今回改めて採り上げたいんだ。」
M:「第16回といえば、エラ&ルイのアルバムだけど、どっち?」
D:「ルイの方だよ。サッチモことルイ・アームストリング。Murphyくんは、ルイの曲は他に何か知ってる?」
M:「そうだな、以前にホンダのCMに出てきた歌ぐらいかな。」
D:「ああ、What a Wonderful Worldね。この曲は一番ポピュラーかもしれないね。今回は、ルイのもっと古い録音で、どうしても採り上げたいアルバムがあってね。ルイのアルバムはとても多いけど、そのなかで彼のベストアルバムの1つだと思っているのがあるんだ。でも、案外このアルバム、あまり知られていないかもね。」
M:「古い録音って、いつ頃の?」
D:「1954年の録音で、CBSに吹き込んだ「ルイ・アームストロング プレイズ・W.C.ハンディ」というアルバム。」
M:「W.C.ハンディ? 聞いたことないけど、ひょっとして作曲家の名前?」
D:「そのとおり。このアルバムは、ルイの傑作の1つだね。ハンディという作曲家は、ブルースの父といわれる人で、数々のブルースを作曲している。一番有名な曲は、セントルイス・ブルース。」
M:「ああ、その曲知っているよ?」
D:「そうだろう。みんな知っている曲だね。ルイは、この曲を1920年代から何度も吹き込んでいるんだけど。このアルバムでの演奏が間違いなくベストだね。あの陽気なルイが、いつになく真剣に取り組んだアルバムで、相当な集中力で気迫が漂っている。すべてハンディの曲で11曲も録音するっていうことは、ルイにとっても、相当なプレッシャーがあったと思うね。ブルースの父、ハンディの曲を演奏するんだから、へたなものは作れないという気持ちが、アルバム全体を支配している。当時のレコードのライナーノートで、大和明さんが書いているけど、作曲者であるハンディ自らが、
「当時出来上がったテープを、レコード編集室で聴いた81歳のW.C.ハンディは視力を失った目に感激の涙を浮かべ、自分の作品をこれ以上に素晴らしく演奏したのはルイ以外にかつてなかった。(大和明著 ライナーノートより)」と、絶賛したらしい。」
M:「あの、サッチモがそんなに気迫を込めて演奏したのか。」
D:「そう。Murphyくんにも、ぜひ一度聴いてほしいんだけど。ボクは初めてこのアルバム聴いた時、1曲目のセントルイス・ブルースで、うわあ、スゴイと思ったね。ルイが素晴らしいリズム感でリードしていく。これまで聴いてきたこの曲のイメージとは異なり、セントルイス・ブルースって、こんな生命力があったのか、と思ったね。まさに、ブルース。名曲!。でも、ルイのことだから、ユーモアも忘れていない。この曲を聴いて以来、一番好きなブルースは? と聴かれれば、真っ先に、ルイのセントルイス・ブルースが浮かぶんだ。」
M:「Djangoくんにとって、セントルイス・ブルースは、マイ・フェイバリット・ソングだったのか。」
◇◇◇
プレイズ・W.C.ハンディ
最近のコメント