Murphyくん、今回は手紙を送ります。
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Murphyくん、いまボクは、リー・ワイリ(Lee Wiley)の「ナイト・イン・マンハッタン(Night In Manhattan)というアルバムを聴いています。このアルバム、初めて出会ったときのこと、今でも覚えています。それ以来、このアルバムを聴くたびに、いつも初めてのアルバムを聴くときのような新鮮な気持ちになります。
1曲目の「マンハッタン」という曲は、リチャード・ロジャースとロレンツ・ハートのコンビによる若い頃の作品。本当にロマンティックな曲とは、この曲のことでしょうか? リー・ワイリーの歌は、モノクロ写真を見ているような渋い味があり、ハスキーで独特のビブラートの歌声が、ニューヨークのマンハッタンを巡り、飽きることなく街じゅうを案内してくれているようです。マンハッタンのブティックや小物雑貨の古くてもシャレた店や、昔からの古い佇まいのカフェでくつろいでいるようです。オールドファッションに身を包んだカフェで飲むコーヒーの香りや、昔からの板張りの床の木目などの味わいは、リー・ワイリーの歌のようです。
このアルバムを聴くと、いつも心地よい気分になります。ニューヨークから、ヨーロッパに移り、ハプスブルグ家の都、ウィーンの街に着いたときの気持ちや、シュテファン寺院からドナウ川方面へ少し歩いたところにある、何気なく見逃しそうな、普段着で気取らないカフェに入ったときのイメージに近いものが、リー・ワイリーの歌から感じられます。
リー・ワイリーの歌は、昼間でも、聴きたくなる曲があるかと思えば、夜の静けさのなかで、そっと聴いてみたい曲もあります。一日の終わりには、アルバムのなかの「ストリート・オブ・ドリームズ」という曲がぴったりです。
このアルバムの伴奏役をつとめる、ボビー・ハケットのトランペットも、50年代のクラシックカメラのような、味わい深さがあり、リー・ワイリーにぴったり寄り添ってオブリガードを奏でます。このいぶし銀のトランペットを聴きたくて、またこのアルバムをかけることもよくあります。
リー・ワイリーは、アルバム数の少ないジャズ・シンガーですが、この一枚のアルバムだけで十分です。なぜなら、何回も聴きたくなるからです。このアルバム、誰にでもおすすめできるものではありません。なぜなら、モノクロ写真のよさがわかるような、味わいが感じられる人でないと困るからです。リー・ワイリーは、そんな地味で隠れた存在です。ある街角で、昔も今も変わらずひっそりと続いているお店のような感じがして、このまま騒がれずに、リー・ワイリーが本当に好きな人だけに、聴き続けてほしいと思います。
そして、今、最後の曲が終わり、ふたたび、1曲目の「マンハッタン」をかけました。ウィーンの街角で見つけた、小さなお店は、またふたたび訪れたくなるように、もう一度リー・ワイリーを聴いてみたくなります。夜になれば、こだわりをもったケラーでビールとワインをもう一度飲みたくなるような、心地よい空間と味わい深さ、それがリー・ワイリーのこのアルバムです。
では、Murphyくん、次回を楽しみに。 Djangoより
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Lee Wiley Night In Manhattan 1951,52年録音
ナイト・イン・マンハッタン
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